銀幕雑記帖:あ行
銀幕雑記帖

<あ>

あの子を探して
イル・ポスティーノ
イン・ディス・ワールド
ウェルカム・トゥ・サラエボ
ヴェニスの商人
エリザベス
エリザベス ゴールデン・エイジ
オール・アバウト・マイ・マザー
踊る大捜査線 THE MOVIE
踊る大捜査線 THE MOVIE 2

あの子を探して
  素朴な雰囲気は「初恋のきた道」と似ています。これがチャン・イーモウ監督の味なのでしょう。農村の子供達が可愛いなあ。 ウェイ・ミンジがいかにも野暮ったいと言うか、世間知らずと言うか、一途と言うか、見ていてじれったくて腹が立ってくるほどなんですよ。だからいいんです。逆に、この役にチャン・ツィイーのような垢抜けた女の子を起用していたらそれほど面白くなかったでしょう。(「初恋〜」はチャン・ツィイーで正解。あの映画は、観客が最初から最後までヒロインに感情移入して見るということが大切なのです。一方この映画では、観客が初めはミンジに不快感を持つくらいがちょうどいい。それでこそ、ミンジが一生懸命ホエクーを探したり、カメラに向かって涙を流すシーンが胸を打つのですから。)
 そして街の人たち、テレビ局長とアナウンサー以外どいつもこいつも冷たすぎ。特に2元5角を要求したお姉ちゃん、ミンジの鞄の中を無理やり見ようとするわ、ミンジが身につけているお金を取ろうとするわ、なんて心の卑しい人間かと。まあでも見る者にそこまで嫌われるくらいの演技をしたということは彼女がすぐれた役者だってことです。
 「初恋〜」と比べると全体に粗削りという印象を受けました。「初恋〜」のほうが構成や音楽、映像に工夫がされています。作る側が「演出巧者」になったということですね。(2002年3月9日)
<1999年/中国/監督 チャン・イーモウ/主演 ウェイ・ミンジ>

イル・ポスティーノ  Il Postino
 イタリアの小さく貧しい島に、愛の詩人がやってきた。詩人は共産主義思想のために祖国チリを追放された、パブロ・ネルーダ。たまたま郵便配達の仕事を見つけた島の青年マリオ(マッシモ・トロイージ)は、唯一の配達先であるネルーダの家に通ううちに隠喩(メターフォラ)の世界に魅せられていく…。
 美しい島を舞台に、2人の人間の友情が描かれます。マリオは子供のような純真さが画面からあふれ出てくるようで、観るほうは最初から作品の世界にどっぷり感情移入。照れ笑いするマリオなんて可愛くて仕方ありません。フィクションということを感じないんですから、不思議です。島の様々な音色を録音する場面ではこちらも幸せな気分になりました。軽快で優しいテーマ曲が、島の風景とよく合っています。観ていて癒される映画。(2003年12月28日)
<1992年/イタリア・フランス/監督 マイケル・ラドフォード/主演 マッシモ・トロイージ>

イン・ディス・ワールド  In This World
 アフガニスタンの難民キャンプで育った少年・ジャマールは、従兄のエナヤットとともに非合法ルートでロンドンを目指す。砂漠を渡り、雪山を越え、どうにかこうにかイタリアへ。途中でエナヤットを失い、ジャマールは天涯孤独になってしまうが、物売りと引ったくりで路銀を得てドーヴァーの対岸へ。そこで知り合った亡命仲間と一緒に貨物船に潜り込んで、イギリスに辿り着く。
 あれだけの長く、苦しい道のりを行かねばならないジャマールを支えたものはただ一つ、まだ見ぬ地への希望。「ロンドンへ」「ロンドンへ」ただそれだけを考えて旅をし、また時にはジョークを口にして周囲を和ませるジャマールからはたくましい生命力が感じられます。しかし、そのような苦難に直面することを強いられる彼の境遇を思うと、彼には何の罪もないだけに、現状に対し一つの文句もこぼさない姿は痛々しくもありました。主人公のジャマール少年(実名)は、本作の撮影後、本当にイギリスに亡命してしまったそうです。(2004年4月8日)
<2002年/イギリス/監督 マイケル・ウィンターボトム/主演 ジャマール・ウディン・トラビ>

ウェルカム・トゥ・サラエボ  Welcome to Sarajevo
 イギリス人記者のマイケルは、サラエボで取材中。サラエボは街全体が戦場であり、住民は常に死と隣り合わせ。そんな中で孤児院を取材したマイケルは、安全な国外に子供たちを脱出させるべく奔走する。ジャーナリストを主人公とし、その取材活動を通して戦場の悲惨さを突きつけるドキュメンタリー。
 死体の映像がこれでもかというほど出てきます。「戦争で苦しむのは女と子供」なんていうのは反戦運動の決まり文句ですが、実際、銃の前では男女も老若もありません。当たれば死ぬ、それだけです。戦争は普通の人の普通の生活を、何の躊躇もなく無差別に破壊する。殺人が、日常の一つになってしまう。憎悪の連鎖がどれだけの悲劇を生むかということを痛感されられました。タオル必携です。(2004年4月8日)
<1997年/イギリス/監督 マイケル・ウィンターボトム/主演 スティーブン・ディレーン>

ヴェニスの商人  Merchant of Venice
 アル・パチーノ演じる哀しき高利貸し・シャイロックはもちろん見どころなのだけれど、むしろポーシャ(リン・コリンズ)の男装が大変な似合いようでドキドキしました。口ひげが可愛い!「恋に落ちたシェイクスピア」でヴァイオラ(グウィネス・パルトロー)がやはり口ひげをつけて男装をしていたのがすごく可愛かったのですが、それによく似てます。2人とも顔立ちの「女度」がそんなに高くない(悪く言えば地味顔)なので、男装が違和感ないのかも。
 バッサーニオの「妻のポーシャよりもアントーニオが大事」発言に対するポーシャの台詞「それは奥様の前で言わないほうがよろしいでしょうな」が省略されていたのは残念でした。好きな場面だったので…
 バッサーニオの結婚生活は間違いなく、「ポーシャの手のひらの上で転がされる」ことになると思います。
 しかしびっくりしたのは、アントーニオとバッサーニオのキス!そういう関係だったのかー!
 そういえば、アントーニオがおじさんだったので、最初誰だかわかりませんでした。もっと若い(バッサーニオと同年代)とばかり思っていたので意外です。(2009年3月3日)
関連:沙翁庵「ヴェニスの商人」
<2004年/アメリカ、イタリア、ルクセンブルク、イギリス/監督 マイケル・ラドフォード/主演 アル・パチーノ>

エリザベス  Elizabeth
 25歳でイングランド国王となったエリザベス1世が、国内の宗教対立をまとめ、政界の陰謀と裏切りを粛清して、しまいには「女を捨てて」女王としての地位を確立するまでを描いた作品。史実をある程度知っていないとわかりにくいかも。欧米の人は「カトリックとプロテスタントの対立」と言えば何のことかすぐに分かるだろうということなのか、その辺の説明はすべて省かれていますが、日本人にはピンと来ないのでは?さらに、エリザベス1世の親兄弟の血縁関係についても、この映画では観客があらかじめ知っていることが前提。それを知らずに見ると、冒頭のシーンからして「???」ということになってしまいます。逆に、その辺の知識がありさえすればこの映画はすんなり楽しめるでしょう。
 時代考証については(私は詳しくないので偉そうなことは言えませんが)、正確な方だと思います。衣装を見るだけでも面白いし(特に男性の、大きなブルマみたいな…)。あとお城の中が意外に暗いんですね。中世から抜け出したばかりの雰囲気が良く感じられます。
 ケイト・ブランシェットはハマリ役。エリザベス1世の肖像はいくつかありますが、なんか似てるんですよ(まさか顔で選ばれたわけではないでしょうが)。即位直後は娘気分がまだまだ抜けず、国王としては右も左も分からなかったエリザベスが、私情を排除することを覚え、議会との駆け引きを覚え、徐々に貫禄を付けていくさまを見事に演じました。ブランシェットとジョセフ・ファインズが、舞踏会で踊る姿もかっこいい。
 ヴァンサン・カッセルが登場した瞬間、「ジル・ド・レだぁ〜!」と思ってしまいました。彼はちょっとアブノーマルというか崩れたというか、いやらしい男を演じるとうまいですね。フランス訛りの英語もすてきです。でも女装はどう見ても変だぞ(もっとも、あんな間抜けな格好ができるのもカッセルならでは。ファインズには無理じゃない?)。 (2002年9月3日)
<1998年/イギリス、インド/監督 シェカール・カプール/主演 ケイト・ブランシェット>

エリザベス  Elizabeth: The Golden Age
 前作「エリザベス」から10年。貫禄十分のケイト・ブランシェット女王に同姓ながら惚れ惚れせずにはいられません。
 本作は即位から約30年を経たエリザベスを描いています。50代半ばにさしかかったエリザベスは、増えるしわにため息をつき、若い侍女の美しさに嫉妬します。自他共に認める君主として確固たる地位を築いているものの、宮殿から出て羽根を伸ばすことはほとんどありません。
 そこへ現れるのが、海賊のウォルター・ローリー。「新大陸」アメリカから持ち帰ったタバコやジャガイモをエリザベスに献上し、波乱に満ちたドラマチックな航海の様子を語ります。エリザベスは「私も航海に出てみたい」と冒険に憧れ、またローリーに男性としての魅力を感じていました。
 ところが、最も信頼していた侍女ベスがローリーと関係を持って妊娠したため、エリザベスは激しく嫉妬して取り乱し、自信を失いかけます。
 一方国外では、熱心なカトリック教徒のスペイン王フェリペ2世が、プロテスタントのエリザベスを敵視。ローリーがスペイン船に対して海賊行為を繰り返していたこともあり、イングランドとスペインの対立は決定的になり、アルマダの海戦が勃発します。
 エリザベスは自ら鎧を着け、馬にまたがって兵士を鼓舞し、戦争に勝利します。この勝利でエリザベスは一国のリーダーとしての誇りを取り戻します。ラストシーンの台詞「私は子供はいないが、すべてのイングランド国民の母親なのだ」がそれを象徴しています。
 閉じた宮殿内部と、開放的な屋外の場面をうまく使い分けているという印象でした。エリザベスがローリーと馬で草原を駆けるシーンの開放感は、見ている方も爽快です。これが生きるのは、従者たちに始終囲まれている宮殿内のシーンがあるからこそ。
 エリザベスをどこまでも生身の人間として描く監督の姿勢がよく分かり、ラストまで引き込まれます。誇り高い君主として君臨する一方、美しい侍女に嫉妬する弱さ、戦争を前にした焦りやいら立ちといった生々しい感情を、ブランシェットが見事に演じています。「エリザベス1世」が歴史の教科書の人名のひとつなんかではなく、血の通った「ひと」だったという当たり前のことにあらためて気付きました。(2009年3月12日)
<2008年/イギリス、インド/監督 シェカール・カプール/主演 ケイト・ブランシェット>

オール・アバウト・マイ・マザー  Todo sobre mi madre
 タイトルから、息子が母のことを語る映画かと思っていたら、息子は早々に死んでしまいます。息子のエステバンを失ったシングルマザーのマヌエラは仕事を辞めてバルセロナへ行き、かつての友アグラードと再会。そこで若い修道女ロサと知り合い、エイズに感染し妊娠したという彼女の世話をすることになります。女の体を手に入れた男、その男の子供を身ごもる修道女、薬物中毒の舞台女優―と、どこか「普通の」道から外れた「女」たちの人生とマヌエラの人生の糸が絡み始めます。
 知り合ったばかりのロサの面倒を見、これまた知り合ったばかりの女優ウマの付き人を務めることになるマヌエラ。さらにロサの子どもの父親が、エステバンの父親のロラと同一人物であり、その上ロラはアグラードと同様に女の体を手に入れていた…と、普通ならパニックになってもおかしくない展開です。
 そんな奇妙な人々と共振しながらも、振り回されることなく自分を保つマヌエラは、風に揺れながらも根と茎は変わることなく、空に向かって伸びる草のように、内面のしなやかな強さを感じさせます。ロサが「エステバン」と名付けた赤子を、マヌエラが引き取って育てるラストはとてもすがすがしい。派手な演出はなく、淡々とストーリーが進んでいきますが、見終わるとなぜかもう一度見たくなるという不思議な味わいを持った作品です。(2009年3月12日)
<1999年/スペイン/監督 ペドロ・アルモドバル/主演 セシリア・ロス>

踊る大捜査線 THE MOVIE
 TVドラマ「踊る大捜査線」が好評を博したため、映画作品にまで発展したのが本作です。警視庁副総監が誘拐され、湾岸署に捜査本部が置かれるも、例によって所轄の捜査員たちは本庁の捜査員から軽視され、青島刑事の怒りが爆発。

 カケイストの私の目には新城管理官しか入りませんでした(笑顔)。新城は本作以前にTVのスペシャル版「踊る」に3回登場していますが、一貫して、保身と出世のことしか考えていない冷徹な典型的エリート官僚という人物でした。それが本作では、ちょっと変化が現れます。現場に向かうと言う室井にコートを差し出したり、青島が重傷と聞いて上層部に「局長、お聞きになりましたか。局長!」と訴え、「兵隊は犠牲になってもいいのか」と憤って受話器を置く。「所轄は組織のコマだ」と言っていた頃とはえらい違いです。その心境の変化がどのあたりで起こったのかいまいちはっきりしないのが少々残念。

 実は、ラストの「所轄に理解を示した新城」と同じくらい「エリート風吹かせまくりの新城」も私は好きです。言動だけ見るとものすごく高慢で腹立たしいのですが、同時に、肩書きによってしかアイデンティティを維持できていないような危なっかしさ、内面の弱さもたやすく透けて見える。そのため、新城賢太郎は非常に人間くさいキャラクターになっているのです。

 新城が室井に現地本部長を譲る際の2人の会話シーンが、本作でいちばん気に入っています。新城は普段どおり淡々と話しているものの、言葉の端々に東大閥の優越感がありありと出ている。その極致が、「そうしたほうがいいんじゃないかな」と言って室井の顔を見たときの口角2ミリのほくそ笑み。筧さんの演技力に拍手!この直後の「入試で遊ばず〜」も全く言う必要のない一言ですが、こんなことをわざわざ口にするあたり、ことあるごとに自己の優位性を誇示していないと自分に自信が持てないのがよく分かります。

 ちなみにこのシーン、室井はコーヒーを飲んでいるのですが新城はポットからお湯を注いでいるんですね。何を飲んだのかちょっと気になります。新城はコーヒーよりお茶派なのか。(2005年11月13日)
<1998年/日本/監督 本広克行/主演 織田裕二>

踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!
 「踊る大捜査線 THE MOVIE」の続編。制作側としては「踊る」は前作で完結したのであって続編を作る気はなかったそうですが、ファンの要望でこれが作られました。

 確かに、前作がきれいに終わったのを無理やり引き伸ばしたような感じが否めません。所轄と本庁の間の反目という問題は前作のラストで解決へ向かうように思えたのに、今回沖田管理官が登場したおかげで、全く同じ問題が再燃しているのです。とはいえ今回は、前作でなされなかった「所轄の捜査員主体の捜査」ができたという点が進歩と言えるのかもしれません。が、発生する事件の面白さからいっても、ラブリー新城【違】の活躍度からいっても前作のほうが個人的に好きです。

 今回の捜査本部長は沖田管理官なので、筧さん演じる新城補佐官(本作から昇進したらしい)は湾岸署には来るものの出番は少なめ。「Dr. コトー」仕様としか思えない浅黒い肌の新城、エリート官僚なのにどこでそんな日焼けしたの!(笑)前作ではもやしっ子を地で行くかのようなナマっちろさが色黒の室井と対称的で、いかにも「現場を知らないキャリアくん」な空気を醸し出していたものですが。

 あとは毎回思うことですが、大柄な人が多い本庁の皆様の中で際立ってちまっこい新城が可愛くて仕方がありません。VIVA!166cm!(2005年11月20日)
<2003年/日本/監督 本広克行/主演 織田裕二>

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